「幸せになりたいのになかなかそうはなれない」「幸せになるにはどうすればいいかわからない」と感じている人は多いのではないでしょうか。日本は世界的に見て、先進国でありながらも幸福度は低く、自分が幸せだと感じる人の割合が低くなっています。そもそも幸せとは一体どのようなことを言うのでしょうか。ウェルビーイングという考え方について解説していきます。
目次
- 幸せとは
- 主観的幸福感とは
- まとめ
世界149カ国を対象にした2018年から2020年までの幸福度調査(World Happiness Report 2021)では、日本の幸福度ランキングは56位(前年の調査は62位)であり、ほかの先進国に比べると低いことが分かります。
幸福度ランキング上位は次の通りです。
1位:フィンランド
2位:デンマーク
3位:スイス
4位:アイスランド
5位:オランダ
6位:ノルウェー
7位:スウェーデン
8位:ルクセンブルク
9位:ニュージーランド
10位:オーストリア
このように見ると、幸福度ランキング上位には北欧(および西ヨーロッパ)の国が多いことが分かります。北欧では、税金が高く社会保障制度が充実しており、医療費や学費が大きく軽減されることがよく取り上げられています。
例えば、デンマークの医療ではホームドクター制というものを確立しており、住民は基本的に地域のホームドクターの無料診察を受け、必要に応じて専門医療機関などに紹介状を書いてもらうという仕組みをとっています。何かあったときに安心して無料で受診できる仕組みが幸福度に影響しているといわれています。
また、フィンランドやデンマークでは学費の無償化が進んでおり、幸福度の向上に大きく影響していると考えられています。学費の無償化により、家庭の収入によって進学できないという状況が起こりにくく、一度社会へ出た人であっても大学へ通いやすくなります。
では、日本の幸福度が低いのはなぜでしょうか。幸福度は7つの項目を総合して点数が付けられていますが、日本では「寛容さ」「自由」を表す項目が特に低くなっています。
「寛容さ」は、寄付した金額を主な指標として算出されており、文化的な慣習の違いが影響しているということも指摘する声があります。
「自由」とは、自分の人生を自分で選択できることを指しますが、女性の社会進出の遅れやブラック企業問題、保育園の待機児童問題などに代表されるように、日本では不自由さを感じている人が多いということが示されています。
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どのような状態を幸せと感じるかは人それぞれですが、「お金がたくさんあったら幸せになれる」「恋人がいたり結婚したりすれば幸せになれる」「もっと外見がよければ幸せになれる」などと考える人も多いのではないでしょうか。しかし、お金がたくさんあってもそれを使う楽しみがない人や、結婚しても働きすぎで体を壊してしまった人、外見がよくても家庭のことで困っている人もいて、必ずしも幸せとは言えないようです。
1974年以降、経済学者のリチャード・イースタリンは、一人あたりGDPの比較により、お金があることと幸せと感じることの間に明確な関係が見られないことを主張しました。これは、幸福のパラドックスやイースタリンパラドックスと呼ばれています。
近年、「健康」を意味する「ウェルビーイング(well-being)」という考え方が広まっています。一般的に「健康」というと病気がない状態を意味しますが、ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的な健康を意味し、これこそが「幸福」を表す言葉としてよく使われています。社会的な健康とは、主に困ったときにサポートを得られることを指し、福祉や社会保障との関連が大きいと考えられています。
「幸せ」というと「ウェルビーイング(well-being)」ではなく「ハピネス(Happiness)」という言葉があると思う人もいるのではないでしょうか。ウェルビーイングとハピネスには以下のような違いがあります。
ハピネス
ウェルビーイング
例えば、仲の良い友人たちと遊んでいる瞬間や美味しいものを食べている瞬間に感じられるのは主にハピネスとしての幸せです。これからも友人と遊べる将来があることや美味しいものを食べられる環境にいることはウェルビーイングとしての幸せを指します。仲の良い友人や自分がすぐに病気になってしまったり、食糧不足になって誰も助けてくれなかったりする環境では、持続的に幸せだと感じられる度合いは小さくなるでしょう。
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心理学者のマーティン・セリグマンは、うつ病(学習性無力感)の研究をしていましたが、これまでの心理学が精神的にネガティブな側面にばかり着目してきたことに対して、より肯定的な側面についての研究を発展させました。
また、QOL(Quality of Life:生活の質)研究において、一人あたりのGDPなどのような客観的な指標だけでは幸福度が測れないとされてきました。
このような流れの中で、主観的幸福感(主観的ウェルビーイング)への関心が高まってきたのです。主観的幸福感とは、個人の主観的な心理面での幸福感を指します。
主観的幸福感は、「認知的側面」と「感情的側面」から成ると考えられています。
認知とは物事をどのように捉えるかということを指します。また、自分の思考や行動を客観的に判断して認知する能力をメタ認知といいます。このメタ認知は自分の感情をコントロールすることに役立つため、幸福感を高められると考えられます。
マーティン・セリグマンは、主観的幸福感につながる流れをついで、5つの要素からウェルビーイングを捉えることを提唱しました。ポジティブ感情(Positive Emotion)、エンゲージメント(Engagement)、関係性(Relationship)、意味・意義(Meaning)、達成(Achievement)の5つの要素の頭文字をとってPERMAモデルといいます。それぞれは、具体的に以下のような内容が挙げられています。
1.ポジティブな感情
喜びや楽しさ、満足感、ポジティブな気分、(健康)
不安や怒り、孤独感、悲しみを多く感じないこと
2.エンゲージメント
夢中になるものがあること、物事に面白さを感じること、楽しみに没頭すること
3.関係性
困ったときに助けてくれる人がいること、愛されていると感じること、人間関係に満足していること
4.意味・意義
意味や目的がある人生を送っていると感じること、自分自身のとる行動を価値のあるものだと感じること
5.達成
目標に向かい前進していると感じること、自分で決めた目標を実現できること
日本の幸福度は先進国の中でも低く、寛容さや自由といった指標が大きく影響しています。幸福はウェルビーイング、すなわち身体的・精神的・社会的な健康という観点から考えられます。幸せというと、これまでお金やステータスの面ばかり考えられる風潮がありましたが、個人の主観的な生活への満足感や感情について考えられるようになりました。主観的な側面を重視したウェルビーイングでは、普段ポジティブな感情を持っていることは然り、夢中になるものがあることや肯定的な人間関係があること、人生に目的を持ち意義を感じること、そして目標を達成することが重要だと考えられています。
<参考文献>
西尾 悠佑, 石川 信一(2016)心理的ウェルビーイングとウェルビーイング療法に関する展望, 心理臨床科学, 6巻, 1号, pp.43-52
田中 芳幸, 外川 あゆみ, 津田 彰(2011)健康や長寿に及ぼす主観的ウェルビーイングの役割, 久留米大学心理学研究, 10巻, pp.128-149
伊藤 正憲(2013)幸福のパラドックスについてのノート, 現代社会研究, 16巻, pp.119-130
伊藤 裕子, 相良 順子, 池田 政子, 川浦 康至(2003)主観的幸福感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討, 心理学研究, 74巻, 3号, pp.276-281
田中 敏, 本塩 彩衣(2017) M.E.P.Seligman (2011) のwell-beingの理論的構造に関する実証的再考, 日本教育心理学会総会発表論文集, 59巻, 第59回総会発表論文集, セッションID PA57, pp.160
岩佐 康弘(2017)大学生の主観的幸福感におけるメタ認知及び家族機能の影響, 教育実践研究紀要, 17巻, pp.81-92
伊藤 萌恵, 原口 雅浩, 徳田 智代(2019)大学生における時間管理が主観的幸福感に及ぼす影響 : 特性的自己効力感を媒介変数として, 18巻, pp.21-30