「インポスター症候群(詐欺師症候群)」という言葉は耳にしたことがない方が多いのではないでしょうか?会社や学校などで、能力や地位、成績が認められ、高く評価されているのにも関わらず、自分の価値や能力を否定したことはありませんか?成功を得ているのに、自分に自信が持てず、ネガティブな思考から抜け出せていないと感じておられるのであれば、もしかすると、あなたにもインポスター症候群の傾向があるかもしれません。
目次
- おわりに
インポスター症候群とは、自己の能力や立場、財産や成功などについて、自分の実力を心の中で肯定できずに、自分を過小評価する心理状態を示します。インポスターは英語で「詐欺師」を意味しており、インポスター症候群に陥った方には「自分の能力は大したものではないのに、まるで成功している者であるように、自分が他人を騙している詐欺師のような気分になる」という罪悪感があることからこの名がつけられました。特に、成功を掴んでいる女性に多く見られる心理状態で、世界的に有名な女優であるエマ・ワトソンやナタリー・ポートマン、元アメリカ大統領夫人のミシェル・オバマもインポスター症候群に悩んだ過去を打ち明けています。なお、インポスター症候群は病名ではなく心理現象を指します。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
インポスター症候群に陥った人は、自分の成功の要因は、自分の努力の成果や才能とは関係なく、「たまたまそうなった」「偶然の結果だ」と感じる傾向があります。インポスター症候群になる原因は1つに特定されず、以下のようなことが挙げられます。
こういったことに加えて、普段から自分の事を褒めることができなかったり、自己肯定感が低く自分への自信がない傾向にあるような方が、「周りから能力についてのステレオタイプ(固定観念)を持たれやすい環境(例:女性研究者)」に置かれたときにインポスター症候群が特に引き起こされやすいと言われます。
インポスター症候群が引き起こされやすい具体的な例として、以下のようなことが挙げられます。
例に挙げたように、人は時に他者のことを表面的な地位や肩書、所持物で判断してしまうことがあります。そのため、インポスター症候群の当事者は、周りから思われているイメージと現実とのギャップに悩まされたり、そのポジションを今後も維持しなければいけないプレッシャーにさいなまれたりするわけです。
また日本では、他人から褒められたり評価されたりしても「謙虚でいなければいけない」と教わり、謙遜する人が多いことも、インポスターな気持ちを引き起こしやすい要因の一つです。日常生活の中で、小さなことでも他者から褒めてもらえることがあれば、「そんなことありません」と否定するのではなく、まずは素直に「ありがとうございます」と感謝する気持ちを伝えるように意識するだけでも、インポスターな気持ちが軽減されていくでしょう。
ある分野において能力不足の人が、自分の能力不足に気づけず、自分の能力を過大評価する傾向があることを「ダニング=クルーガー効果」と言います。ダニング=クルーガー効果の研究では、未熟な人ほど他人から評価を受ける経験が少なく、能力を正しく評価できかねるため、失敗の原因を自分以外のもののせいにしたりする傾向がみられると考えられています。一方、能力が高い人は、物事の知識や経験、人から評価される機会が豊富で、自分のことをより厳密に他と比べたり、大勢の中のうちの1人として自分を客観視したりすることができる傾向があります。したがって、能力があり周りから高く評価されている人ほど、他者からの良い評価をすぐに鵜呑みにせず、自分の劣っている部分や能力のある他者の存在に着目するため、自分を過小評価する傾向があると言われています。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
インポスター症候群を改善するために、まずはインポスター(詐欺師)のような気持ちになった過去の出来事を振り返り、その時の自分の感情や思っていたことを、言葉にしたり紙に書いたりして認識することから始めてみてください。それを今度は客観的に見て、他にも違う見方ができないかを考えていくことで、過去の捉え方を変えていくことが大切でしょう。これに加えて、他者に評価される、名誉ある立場に選ばれる、などという成功体験や、その結果を得るまでのプロセスにあった努力や葛藤、紆余曲折したこと、熱意などを想い出していくと、ご自身を褒めることができるようになり、インポスターな気持ちも和らいでくるはずです。
また、上記のようなものをカウンセラーや信頼できる人と共有することで、他の人たちの見方や視点を学ぶことができるので、インポスターな考え方を見直すきっかけになり、考え方を再構築していくことも期待できるでしょう。
生きていく中で、インポスター(詐欺師)のような感覚は誰でも経験することであるので、むやみに自分に絶望感を抱いたり、自己否定をする必要はありません。インポスター症候群を改善していくことのゴールは、「今後、絶対にインポスターな気持ちにならないこと」ではなく、評価されることに対して様々な見方があることを知り、インポスターな気持ちが出てきても、その気持ちを上手く自分の中でスムーズに処理できるようになることです。カウンセリングを通して、ご自身の過去の出来事を振り返って見方を変えていくこともできますので、お一人で悩みすぎないよう、お気軽にお声かけ下さい。
自分を過小評価してしまう心理状態は、インポスター症候群だけに見られるものではなく、うつ病にも見られる症状です。アメリカ精神医学会が定めるDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)における「大うつ病性障害(大うつ病エピソード)」の診断基準の中には「ほとんど毎日無価値感があること」が挙げられています。無価値感とは、自分を過小評価し、生きている価値がないと否定する状態をいいます。自己に対する無価値感の程度や内容は人により様々ですが、このような心理状態が長く続くと、今後生きていくことが辛くなったり、物事への意欲や気力も湧かなくなってくることがあります。自分を過小評価する日々が続いておられる場合は、カウンセリングを通して自分の状態を確認していくことや、精神科や心療内科等に早めに相談していただくことをおすすめします。早期に治療をしていくことでうつ病の再発を防ぐことにもつながります。
学校や会社、そのほか様々な場所において人が評価される機会がある限り、インポスター症候群は誰にでも起こりえます。やはり他者の評価を気にせずに、自分の能力を正しく認識することは難しいものです。他者に評価されたことだけを意識するのではなく、そのような結果を出すまでに行ってきた自分の努力やこれまでのプロセスを振り返ってみると、自分自身を褒めたり労わったりする気持ちが湧いてきて、自分を過小評価することが減り、インポスター症候群が少しずつ改善していくのではと思います。
参考
Yes, Impostor Syndrome Is Real. Here's How to Deal With It
https://time.com/5312483/how-to-deal-with-impostor-syndrome/
e-ヘルスネット 無価値感
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-058.html
臨床心理士が助言 「自信がない」症候群の乗り越え方
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO58359140S0A420C2000000/