働いていて「注意力がない」と叱られたことはありますか?真面目に取り組んでいるつもりなのに、書類を書き間違えたり、数を数え間違えたり、つまずきを感じることはないでしょうか。社会人になって初めて、注意力の障害であるADHDが判明することがあります。ここでは、ADHDについて解説しながら、働く上でのつまずきや困りごとの解決法についてお伝えしていきます。
目次
- おわりに
ADHDとは注意欠陥・多動性障害(Attention-Defict/Hyperactivity Disoeder)の略で、発達障害のひとつとして分類されています。発達障害とは、脳の先天的な(=生まれつきの)特性により、社会生活に困難やストレスを抱きやすくなることをいいます。
ADHDを抱える方の割合は、20人に1人と言われています。学生時代であれば、クラスに1人はADHDの方がいることになります。成長するに従い、障害の特徴である多動性が目立ちにくくなるため、診断されることなく大人になる場合があります。
では、ADHDの症状とはどんなものでしょうか?
実際には、ADHDの症状は以下のように分類されています。
①不注意(集中困難)
気が乗らない仕事に対して集中力が続かない傾向があります。業務中でも気が散りやすく、何かに気をとられてしまうと用事を忘れてしまうことがあります。一方で、興味がある分野には没頭し、時間を忘れて取り組んでしまう傾向にあります。
タスクを管理したり時間配分を考えたりすることが苦手で、期日までに仕事を完了できない可能性があります。また、手をつけたはいいものの、仕事を最後までやりきれないこともあります。
②多動性
落ち着きがなく、じっと座っていられない状態です。座っていても、貧乏ゆすりなどをしていることがあります。喋り始めると止まらず、業務中には不真面目にみえてしまうことがあるかもしれません。
③衝動性
他人の話に口を挟んだり、相手が話し終える前に話し始めてしまったりする傾向のことです。思っていることをそのまま口に出してしまって、話の流れを変えてしまうこともあります。また、怒りのコントロールが苦手なことも多く、場をわきまえずに激昂してしまう例もあります。
ご自身に当てはまる傾向はありましたか?これまで努力しても困り続けていたのは、ADHDが原因かもしれません。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
特性には個人差がありますが、ADHDの方が仕事で困りやすいのは以下の2つが要因です。
①不注意傾向
ADHDの方は、忘れ物やミスが多く、細かな確認作業が苦手という傾向があります。この特性の影響で、データ入力作業ができなかったり、仕事を任せられることが減ってしまったりすることがあります。自分自身でデータや手順を確認することが難しいと、仕事の評価も厳しいものになってしまうことがあります。
②多動・衝動傾向
気が散りやすく、取り組んでいる仕事があっても他のことに目がいきやすい傾向は、ひとつのことが終わる前に他のことに気持ちが向いてしまうため、落ち着きがない印象を持たれたり、自分自身で仕事の進捗状況がわからなくなってしまったりする可能性があります。
いかがでしょうか?
「真面目に仕事に取り組んでいるのに、どうしても予定が抜けてしまう」「どんなに気を付けても大事な書類をなくしてしまう」といった傾向が、あなたの特徴と似ているということはありませんか?
仕事におけるADHD特性との上手な付き合い方について、カウンセラーと一緒に考えてみませんか?
このようなことでお悩みではないですか。
うららか相談室では、臨床心理士や社会福祉士などの専門家に匿名で悩みを相談することができます。
仕事に関するそれぞれの困りごとには、以下のような工夫をしてみましょう。
指示を口頭ではなく、文書でもらえるように調整してみましょう。例えば、取引先とのやり取りは電話でなくメールで行うようにする、職場内での指示はメモで残してもらうようにする・・・など、周囲の方と協力して、目に見える形で指示を残すようにしましょう。もちろん、ご自身でメモをとることも忘れずに。
衝動性が強いと、目についた仕事から次々と手をつけて、タスク管理がうまくいかないことがあります。まず、やるべきことを書き出し、優先順位をつけましょう。「今週はここまで終わらせる」「そのために今日はここまで終わらせる」と目標を立てられるとよいですね。優先順位の高いものから取り組み、終わったものは消していきましょう。やるべきことを視覚化することで、仕事の管理がとても楽になります。
一番大切なことは、保管場所を決めることです。そして、必ず決めた場所に収納するようにしましょう。ものの保管場所を一覧表にするか、写真に撮り、目の届くところに貼っておきましょう。書類やメモはスキャンしてデータ化しておくと、いっそう管理が楽になります。定期的にデスク周りを片付けて、ものがたまらないようにすることも大切です。
ADHDの人は、出掛ける準備がぎりぎりになってしまう傾向があります。前もって準備しようと思っても、他のことに気をとられてしまったり、時間の管理が苦手だったりするためです。予定の30分前には到着するように、準備をはじめましょう。場所や時間の勘違いも起こりやすいため、予定をいれるときは時間と場所をメモや社内システムに残しましょう。カレンダーで管理することも有効です。
ADHDの方は視覚や聴覚が過敏なことがあります。職場の灯りや音によってストレスを感じやすいのです。個人でできる対策は、PCの画面照度を下げる、ブルーライトカット用の眼鏡をかけるなどがあります。上司や職場の方の理解を得た上で、耳栓をすれば音のストレスも軽減できます。
これまで、ADHDの特性に困ってきたご経験のある方はたくさんいらっしゃると思います。しかし、ADHDには仕事に活かせる特性もたくさんあります。ADHDを抱える方は、一般的に以下のような傾向を活かすことができると考えられています。
これらの特性を活かせる仕事では、ADHDの特性は長所に変わります。デザイナーやカメラマンなどの発想力と感覚を活かせる仕事や、営業などの新しい刺激を得られる環境で活躍できるかもしれません。そのためには、スケジュール管理やタスク整理など苦手とする部分について対策を立てることが必要となります。助手やマネージャーがいるような環境であれば怖いものなしですが、なかなかそれは難しいでしょう。ToDoリストの作成やスマートフォンのカレンダー機能を活用するなど、ご自身なりの業務管理方法を身に着けられるとよいですね。タスク管理の方法については、専門家に相談してみることをおすすめします。
また、ADHDの方には以下のような働き方が向いています。
①裁量労働制
業務の遂行や時間配分について、労働者自身で決める裁量が多い働き方です。研究者、公認会計士などの士業、コピーライターなどに導入されています。どのように結果を出すか、そのためにどのくらい時間を使うかを自分で決めることができるので、ADHDの方に向いている働き方のひとつです。
②フリーランス
企業に所属せず、自分自身で業務を請け負う働き方です。自分のスキルを活かして、時間や場所にとらわれずに働くことができます。
上記2つはいずれも専門性の高い職種に限定された働き方のため、会社に所属しながらストレスを少なくするには、フレックスタイム制を導入している企業で働くことをおすすめします。一定の期間の総労働時間が定められており、1日の労働時間は労働者に委ねられる制度です。例えば「今日は9:00~17:00」「明日は10:00~18:00」というように始業時間を変えることができます。比較的自由な時間に働くことができるため、作業に没頭したいときに長めに働き、仕事が少ないときには早めに切り上げることができます。多くの企業では必ず出社しなければならない時間である「コアタイム」が設定されており、1日6時間は働くようになっています。
ご自身の特性を理解するには、専門家の助けがあるとスムーズです。うららか相談室には、ADHDをはじめ、発達障害の支援経験があるカウンセラーも在籍しています。ご自身の傾向をつかんで、仕事での困りごとを減らせるよう一緒に対策を立てられるとよいですね。
<参考文献>
公益財団法人 日本精神神経医学会, 村明先生に「ADHD」を訊く, https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=39(2022-03-01参照)
ハートネット 福祉総合情報サイト, 職場での知恵と工夫 発達障害を生き抜くために-大人の発達障害-, https://www.nhk.or.jp/heart-net/hattatsu-otona/survive/device.html(2022-03-01参照)