コミュニケーションは、人間が社会生活を営むうえで不可欠なものです。コミュニケーションがスムーズにできれば生きやすいですが、逆に苦手意識を持つ人も決して少なくないことと思います。
コミュニケーションが苦手な背景にはどんな原因があるのでしょうか。どんなふうに改善していけばいいのでしょうか。
この記事では、コミュニケーションへの苦手感を軽減し、より良い人間関係や自己評価を得ていくためには何ができそうか考えていきます。
目次
- おわりに
コミュニケーションを苦手とする原因は、人や状況によって様々です。どんな原因があり得るのか見ていきましょう。
・経験不足
人とのコミュニケーションは保護者との二者・三者関係から始まり、家庭、保育園、学校等へと進みながら、幼少期から発達段階に応じて学習によって身につける部分も大いにあります。
したがって、発達段階に合った対人関係が持てない環境に居たり、対人関係に躓きがあったりと、人との適切な関りの経験が少ない場合は、コミュニケーションに苦手意識を持つようになるのも自然なことです。
その場に合ったコミュニケーションの方法が分からず自信が持てないと、どんなふうに振る舞えばいいのか、何を話せばいいのか分からず頭が真っ白になってしまったり、意図せず他者を困惑させることを口走ってしまったことがある方も少なくないのではないでしょうか。
そうなると、人と接するのが怖くなり、さらに対人経験を重ねづらくなるという悪循環に陥ることもあり得ます。
・不安や緊張が強い
生来的な性格や失敗体験などによって対人への不安や緊張を感じやすい人は、コミュニケーションへの苦手感も強くなりがちです。
不安や緊張のせいでうまくコミュニケーションが取れないと感じると、相手の反応を過敏に捉えてしまい、「不快にさせてしまったかな」「何か言わなくては」などと考えて焦って、ますますコミュニケーションが苦手になったりします。
・自他境界があいまい
人との適切な関り方は相手によって、また、状況によって異なりますが、自分と他人の境界があいまいだと相手との適正な距離感を測りづらく、物理的にも心理的にも距離が近づきすぎる、または遠すぎるコミュニケーションになりやすいと言えます。
それが相手にとっては一方的に感じられたり、逆によそよそしく感じられたりするような接し方になることがあります。
また、自他境界があいまいだと、相手の状況や気持ちを自分と同じだと思い込んで、相手への想像力や配慮に欠けた対応になることもあり得ます。
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前章でお伝えしたようなコミュニケーションが苦手になる原因は誰にでも起こり得ますが、発達障害がその背景になっているということもあります。ここからは、発達障害の方によく見られるコミュニケーションの特徴についてお話します。
・人の気持ちや人間関係を読み取りにくい
人は、言葉だけでなく、相手との関係性・状況・視線や表情・しぐさ等、言葉以外の情報も使ってコミュニケーションを行いますが、発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症)には、言葉の意味や言葉以外の情報を読み取ることが苦手なところがあります。
したがって、状況を判断したり、人の気持ちや人間関係などを推察するのが難しく、ゆえにコミュニケーションへの苦手感を持つ人も少なくありません。
・あいまいな表現が分かりづらい
ASDのそのような特徴から、あいまいな表現が何を指すのか分からないことや、たとえ話や冗談を言葉通りに受け止めてしまうディスコミュニケーションもしばしば起こります。
また、直接的な表現をして、相手を驚かせたり不快にさせたりすることもあります。
・こだわりが出てしまうことがある
ASDには、特定のことに強い興味やこだわりを持つ特徴も見られます。そのような特徴が、相手の興味関心にかかわらず自分が興味のあることを話し続ける、こだわりの強さゆえに融通が利かない言動をするなど、コミュニケーションの難しさにつながることがあります。
・思いつきで言動をしてしまう
ADHD(注意欠如・多動症)は、思考や注意が逸れやすく次々と移り変わっていく、順序だてた話し方や行動が苦手、などの特徴があります。そのため、思いつきで場にそぐわない言動をしてしまい、適切なコミュニケーションが難しいことがあります。
・特定の学習への困難が対人不安につながることも
発達障害には、LD(学習障害)も含まれます。LDは書字・読字・計算・推論など、特定の課題の習得だけが難しいのが特徴です。知的な遅れはないため、努力不足を疑われたり叱られたりしがちで、それゆえに自己肯定感や自信が低下し、対人場面への不安を抱いてしまうケースも少なくありません。
コミュニケーションが苦手な理由や背景は様々ですが、それが仕事や人間関係に影響することは多々あります。
・誤解されやすい
コミュニケーションが苦手だと、自分から話しかけにくく、また話しかけても思っていることを過不足なく伝えられなかったり、相手の考えや状況を察したり相手の話を的確に理解することが難しかったりもするため、人と関わりたくないタイプなのかな、と誤解されたり、「消極的」「やる気がない」など過度にネガティブなイメージを持たれたりすることにもなりかねません。
・必要な意思疎通が取れず仕事の能率が下がる
仕事や良好な人間関係の維持には、少なくとも最低限必要な関りがあることが前提です。しかし、コミュニケーションが苦手な人は最低限の連絡や確認なども行いづらい場合があります。
そもそもどんな情報のやり取りが必要なのかという判断がよく分からなかったり、必要な連絡自体は分かっていてもそれが苦手でできなかったりして、困っても一人で抱えてしまうことも少なくありません。
そうなると、チームで進める仕事などは進捗や結果に良くない影響が出てくることにもなりかねないという問題があります。
・集中しすぎて、すべきことを忘れてしまう
ADHDが背景にある場合、特徴のひとつに過集中があります。ひとつのことに集中しすぎて優先順位を意識した仕事や行動が難しいことがあり、それが仕事内容や人間関係に影響を及ぼしてしまう場合もあります。
・日々ストレスを溜めやすい
このような、人からの誤解や適切な意思疎通の困難により、コミュニケーションが苦手な人はネガティブな雰囲気や評価を感じ取ることが自然と多くなりがちです。したがって、コミュニケーションが得意な人と同じ環境にいても、ちょっとしたことでストレスを感じやすく、日々しんどい思いを抱えがちと言えます。
また、そのようなストレスから、体調不良を起こすことも珍しくありません。
コミュニケーションが苦手だと、仕事や人間関係に悪影響があるだけでなく、自分の心身や生活までしんどくなってしまうこともあります。可能な範囲で苦手を克服していけるといいですが、それにはどのような方法があるのでしょうか。
・相手の話を集中して聞く
人との会話を善きものにするには、まず相手の話をしっかり聞くことが大切です。当たり前のように思えるかもしれませんが、コミュニケーションが苦手な人は、相手が話している間、「今私はどう思われているだろう」「何と答えようか」「私はこう思う」など、相手の話よりも自分のことで頭がいっぱいになることも少なくありません。
自分のことはいったん置いておいて、相手の話に集中して聞くようにすると良いでしょう。また、反応に困ったときは、相手の言葉を「○○なんですね」と繰り返すと、しっかり聞いてもらえているという印象を与え、より良いコミュニケーションにつながります。
・苦手なことはあらかじめ伝えておく
コミュニケーションにおいて、どんな部分が苦手か改めて考えてみて、あらかじめ苦手であることを伝えておくのも良い方法です。
たとえば、「自分から声をかけるのが苦手なので、どんどん話しかけてもらえたら嬉しいです」「人の話の要点をつかむのが苦手なので、適宜確認しながら聞くようにしてもいいですか?」というように、苦手なこととその対策を伝えておくとスムーズなコミュニケーションの一助になります。
・具体的な指示をもらうようお願いする
あいまいな表現や自発的な動きが苦手な方は、仕事や何らかの作業を一緒に行う相手に対して、指示を具体的にもらえるようお願いしておきましょう。
「適当にやっておいて」「早めに返信しておいて」「こんな感じで」というような指示に不安や分からなさを感じる場合、「まずここまで、この具体例のようにやってみて」「〇時までに返信しておいて」という言い方をしてもらったり、実際の作業を見せてもらったりすると、お互いに何をお願いした/されたのかを理解し合えるようになります。
・メモや確認を意識的に取る
口頭での会話や説明だけだとうまく理解できない方は、メモや確認をしっかり取る習慣をつけると良いでしょう。
文字のメモ以外にも、音声メモや画像・動画など、自分が活用しやすい形の記録を取るようにすると、より良いコミュニケーションが取りやすくなります。
・分からないことは確認する
分からないことをそのままにして進めてしまうと、自分も周囲も困ることになりかねません。少しでも不安な部分があるときは、自己流でやってしまわず、必ず確認するようにしましょう。
直接話しかけるのが苦手な場合はメールで質問するなど、あらかじめ確認手段を相談しておくのも良い方法です。
職場でのストレスを少しでも減らすためには、コミュニケーションが苦手な人でも比較的働きやすい仕事を選ぶのも一手段です。
・一人または少人数でできる仕事
コミュニケーションが苦手な人にとっては、大勢の人間がかかわるよりも、一人または少人数で遂行できる仕事の方が、楽な気持ちで働くことができそうです。
具体的には、配達員・清掃員・運転手・作業員などがその一例です。
・決まった内容を自分のペースで進められる仕事
次々に新しい作業を覚えたり新規の相手と接する状況が多かったりするお仕事よりも、やるべきことが決まっていてルーチンを粛々と進めるタイプの職種の方が、コミュニケーションが苦手な方に向いていると言えます。
データ入力、書類の整理や管理など事務系の仕事や、工場や倉庫のスタッフ、ルート配送や作業員など、対人関係スキルには自信がなくても、同じ作業をコツコツ続ける職種に適正がある方は多いと思われます。
・リモートワークができる仕事
webデザイナーやwebライター、IT系、オペレーターなど、自宅やワークスペースでのリモートワークが可能な仕事なら、通勤や職場で人々と接するときに感じる苦手感をかなり減らすことができます。
会社によってリモートワークが可能な職種や日数は様々ですので、出勤しないことを優先的に考えたい方はリモートワークをキーワードに求職活動をしてみても良いでしょう。
本来コミュニケーションとは、単に挨拶や会話が楽しくできるということではなく、相手を自分とは異なる気持ちや感覚を持った一個人として尊重し、良好な関係を築くために適宜必要な言動を取捨選択する、とても高度な作業と言えます。
したがって、失敗があっても当然ですし、むしろ人の気持ちは本人から聞くまで分からないこと、自分の「普通」は相手のそれとは違う可能性も大いにあることを前提にするのも一手段です。そうすることで、分からないことは聞く、不安なときは相談することにも繋がり、コミュニケーションへの苦手感が軽減することも期待できるのではないでしょうか。