嫌なことや思い出したくないことが頭の中を巡ってしまう現象は、多くの方々が経験していることなのではないでしょうか。自分の意思に反して嫌な記憶が浮かんできたり、もう考えないようにしようと思ってもどうしても忘れられなかったりするのは、一体なぜなのでしょう。
今回は、嫌な事が頭から離れない理由や対処法について考えていきます。思い出したくない過去にとらわれてしまう場合のご参考になれば幸いです。
目次
- おわりに
まずは、過去の嫌なことばかりが浮かんでくるとき、心の中で何が起きているのかを見ていきましょう。
・自分には重要なことだから頭から離れがたい
誰かのちょっとした一言や失敗してしまった経験など、嫌なことが自然に思い出されて頭から離れない状態は「反すう思考」とも呼ばれます。その出来事自体だけでなく、それに対して「ああすればよかった」という後悔や、怒りや不安など辛い感情とともに何度も反すうしてしまうことも珍しくありません。
傍から見れば大したことないようなことでも、本人にとってはインパクトのある体験なので、自然に何度も思い出されるのはおかしなことではありません。
以前傷ついたことと同じような言葉や出来事だったり、コンプレックスに触れるようなことだったり、自分にはとても重要なことだからこそ、何度も反すうしてしまうのだと考えられます。
・学習やリスク回避のためという一面も
繰り返し思い出すことで、自動的にそのことを何度も考え直す機会となり、次は同じ失敗をしないように調整する、嫌なことを言った人からは離れる等、何らかの対策ができる場合もあります。
このように、反すう思考にはより良い対応へとつながる学習やリスク回避のための心の働きという意味もあります。
・傷つきを深める場合もある
一方で、辛かったことが頭から離れない場合、何度も想起することで辛い記憶が強化され、より傷つきを深めてしまうこともあります。
また、それに伴ってストレスも増加し、不眠や食欲減退などの二次的な症状が出てくることもあるため、嫌なことが忘れられず辛い場合は何らかの対処をすることが望ましいです。
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意思に反して嫌なことが頭から離れない経験は多くの方にあると思われますが、これは一般的なことなのでしょうか。それとも病気の可能性もあるのでしょうか?
・自然に薄れていくなら病気ではない
誰にとっても嫌なことは起こり得ますし、「嫌だ」と感じたことが一時的に頭から離れなくなるのは自然なことと言えます。しばらくは何度も思い出して嫌な気持ちになったとしても、時間が経つにつれ薄れていき、そのうち困らない程度に忘れていけるならば、病気ではありません。
・うつ病や不安障害などと関連がある場合も
頭の中が嫌なことでいっぱいになって、仕事や学業などに支障が出るような場合は、それだけで病気とまでは言えなくとも、そのままの状態が続くと身体的な症状が出てきたり、うつ病や不安障害など病気のリスクが高まったりすることがあります。
また、先にそれらの病気があり、その症状である思考力の低下や不安の強さから、何度も同じことや不安が頭の中に渦巻いてしまう状態が見られることもあります。
さらに、強迫性障害の、特定のことに対する強迫観念にとらわれてしまう症状も、反すう思考と関連がある場合があります。たとえば、戸締りをしたか不安になって何度も確認してしまう、運転中に人を轢いたのではないかと考え続けてしまう等、反すう思考の内容が強迫観念を疑われる場合は、強迫性障害の可能性があります。
・PTSDとも関連がある
大きな恐怖やショックを感じる体験によってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると、その症状として突然トラウマ体験が思い出されることがよくあります。
トラウマとなった出来事そのものだけでなく、「あの時こうすればよかった」「ああしなかった自分が悪い」という自己否定的な思考や、当時周囲の人から受けた二次被害の記憶も、連動して何度も浮かんできたりします。
ショッキングな出来事やそれにまつわる内容の反すう思考である場合は、PTSDが元にあるかもしれません。
嫌なことが頭から離れないときは、どうしたらいいでしょうか。一時的な対処法から見ていきましょう。
・軽く身体を動かす
身体を動かすことには、頭の中にあるものから身体感覚など別の視点へと意識を動かす効果があります。散歩やストレッチなど、すぐできそうな軽い運動でもかまいませんので、身体と心を今いるところから移動させてみると良いでしょう。
軽い運動が難しいときは、深呼吸だけでも気を紛らわせることができます。
・集中できそうなことをする
勉強や仕事、片付けや料理といった家事など、頭や手を動かす作業に集中するのもひとつの方法です。作業しながらまた嫌なことを考えてしまうこともありますが、そうなっている自分に気づいたら、「目の前のことに集中しよう」というように、切り替えを試みると良いでしょう。
・充分な睡眠を心がける
充分な睡眠には、身体だけでなく脳を休め、記憶を整理する効果もあります。眠れていないとどんどん嫌なことを考えてしまいがちなので、よく眠ることで嫌な記憶を適切に整理することができます。嫌なことを考え始めたら、思い切って早く寝てしまいましょう。
・紙などに書き出す
頭の中をめぐっている嫌な記憶や思いは紙やスマホのメモなどに書き出すと、楽になることがあります。文字や絵にして書いてみると、心の中がすっきりする効果とともに、頭の中だけで考えているよりも客観視しやすくなり、これまでとは違った捉え方にもつながります。
・目の前にあるものを言っていく
目に映るものの名前や今いる状況をひとつずつ言っていくのも、嫌な記憶に心を支配されないための有効な方法です。
「机がある、私はその前の椅子に座っている」「窓から空が見える」「私は歩いていて、黒い服を着た人とすれ違った」「鳥の鳴き声が聞こえる」など、ゆっくりつぶやいていると、過去の嫌な記憶から「今ここ」に意識を移していくことができます。
嫌なことは忘れられるなら忘れたいものですが、そんな方法はあるのでしょうか?
・忘れようとしない
逆説的ですが、何かを忘れようとすればするほど、その記憶や出来事を強く意識することになり、忘れることは難しくなってしまいます。意図的に忘れることは難しいと知っておき、忘れられなくてもおかしくないんだと捉え、あえて忘れようとしないことが大切です。
インパクトのある出来事の記憶を完全になくすことは不可能に近いですが、思い出したときに「あんなことがあったなぁ。あの時は嫌だったな」と感じる程度の、激しく感情を揺さぶられたり酷く影響されないような、その他の思い出してもどうということはない数多くの記憶と同じようなものにしていくことは可能です。
・「忘れていた瞬間がある」ことを認識する
嫌なことが頭から離れないときでも、ふと気づくと「今は嫌な記憶とは別のことを考えていた」とか「何も考えていなかった」という瞬間があるはずです。それをしっかり意識することで、特別な工夫をしなくても常に嫌な記憶だけにとらわれているわけではない自分に気づくことができます。
また、1日にどれくらいの時間、嫌なことを考えているかを記録してみると、トータルでは意外と別のことを考えている時間の方が長かったり、日ごとに嫌な記憶に使われる時間が短くなっていったりすることが分かる場合もあります。
そのような部分を知ることで、嫌なことを考える時間があっても何とかなる、いつかは囚われなくなっていくだろうと思えると、少し楽になれるかもしれません。
・医療やカウンセリングを受ける
自分ひとりではどうしようもないくらい嫌な記憶に苦しめられているときは、心療内科やカウンセリングなど、専門的なケアを検討してみても良いでしょう。
カウンセリングでは、カウンセラーにお話をする、認知行動療法などで嫌な記憶への捉え方をより楽な方向に修正する、PTSDがあるようならトラウマ治療をするなど、カウンセラーと相談しながら、嫌なことをあまり考えないようになるための取り組みをしていくことができます。
嫌なことをすぐさま忘れる方法は残念ながらありませんが、徐々に気にならない程度にまで変えていくことは充分可能です。
時間とともに自然に考えなくなっていくなら特に病的なものではありませんので、ご紹介したものを中心に楽になる方法をお試しいただけたらと思います。それでも気になる度合いがなかなか変わらない、自然に軽減するまで待てないくらいしんどい、という場合は無理せず専門家にご相談くださいね。