他人から「思いやりのない人だ」と言われて傷ついた経験はありませんか。まるで「自己中心的な人」「自分のことしか考えていない人」と言われているかのようで傷つきますよね。
では、思いやりがない人とは一般的にどのような人のことを指すのでしょうか。また、思いやりのある人になるにはどうすればいいのでしょうか。
目次
- 思いやりとは
- まとめ
思いやりとは、相手の立場になって考えたり相手の心情を推察して気遣いをしたりすることです。
たとえ同じ状況に置かれたとしても、自分と相手の感じ方や考え方は異なります。自分の感じたまま「自分だったら○○してほしい」と考えるのと、相手の立場になって「この人だったらきっと○○してほしいだろう」と考えるのとでは、後者のほうが思いやりを感じられるといえます。
例えば、風邪をひいて寝込んでいるときに、そっとしてほしい人もいれば、世話を焼いてほしい人もいます。自分ならそっとしておいてほしいと思うからといって、相手も同じように思っているとは限りません。「自分は実家暮らしだけど、相手は一人暮らしで頼れる人も近くにいないから、きっと飲み物やお粥などがあると助かるだろう」といったように、相手の立場になって考えることは思いやりがあるといえるでしょう。
また、心理学の研究の多くでは、思いやりは他人を助けようとする心理だと考えられます。
他人を助けようとしたり他人のためになることをしようとしたりする自主的な行動を、向社会的行動や愛他行動といい、思いやりとほぼ同じ意味で使われます。その特徴は次の通りです。
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そもそも他人に興味がないと、他人が助けを必要としていることに気がつかず、思いやりのある行動を取りにくくなります。また、相手に関する情報が不足しているので、共感したり相手の立場になって考えたりすることが難しくなります。
自分のことを優先していると、自分に何らかの負担がかかることをしようとしなくなるため、思いやりのある行動を取りにくくなります。また、他人を助けようとしているつもりであっても、それがお金のためであったり誰かから指示されて行なっているものであったりすると、思いやりのない人だと言われやすくなるでしょう。
次からは、自分の中では他人を思いやっているつもりだという人に多く当てはまる特徴になります。
口では優しいことを言っているけれど、それ以上の行動を取ろうとしない人も、思いやりがないと言われやすいでしょう。口先だけで優しいことを言うのは、相手に行動を起こすことと比べると大した負担になりません。相手から相談されたときには優しい言葉をかけているというだけでは、「優しいけど思いやりがない」ことになるかもしれません。
自分なりの優しさとしてあえて相手に行動を起こさない人も、思いやりがないと言われやすい可能性があります。例えば、入院した友人のお見舞いに行くのではなく、「一人でゆっくり休みたいだろうから」とあえて行動しない場合は、相手にその気遣いが伝わりづらくなります。このように他人との関わりを回避するのは、深い関わりが相手を傷つけるかもしれないと考えるからだといわれています。
他人との深い関わりを避けるのと同様に、「自分よりも他の人が助けたほうが上手くいくだろう」と考えて、自分なりの優しさで相手に行動を起こさない人も、思いやりがないと言われやすい可能性があります。特に、自分に自信がない人ほど、他人任せにすることが多いと考えられます。
また、「自分は思いやりがないのではないか」と考えやすくなる状況について、次のことが考えられます。
感謝の気持ちの伝え方は人それぞれで、オーバーなくらいに伝える人もいれば、そうでない人もいますよね。相手から感謝されることによって、自分は思いやりのある行動をしたのだと実感しやすくなるといわれています。「自分は思いやりがないのではないか」と考えるのは、もしかすると相手から感謝されることが少ないからかもしれません。
思いやりがないこと単体を症状とした病気については考えづらいですが、次のような特徴を持つ障害では思いやりがないと言われることが多いと考えられます。
上記に当てはまる障害としては次のものが挙げられます。ただし、以下の傾向が見られるというだけで障害を決めつけることはできません。
発達障害は、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠陥・多動症)などを含む、先天的な(=生まれつきの)脳のはたらきの違いにより、日常生活に支障をきたしやすくなる特性があります。自閉スペクトラム症は、あいまいなコミュニケーションが苦手であったり、相手の気持ちを読み取ったりすることが難しいため、相手の立場になって考えることが苦手な傾向があります。ADHDは落ち着きがなく注意が散漫しやすいことを特徴としますが、衝動的な言動が目立つ傾向があり、思いやりがないように見えることがあると考えられます。
パーソナリティ障害は、ものごとの捉え方や感情のコントロール、対人関係の在り方などが、大多数の人と異なることで日常生活に支障をきたしている場合に診断されます。特に、回避性パーソナリティ障害では他人との関わりを避ける傾向、シゾイドパーソナリティ障害では他人に関心がない傾向が強く見られます。また、自己愛性、境界性、反社会性、演技性といわれるパーソナリティ障害では、自分の利益を得たり自分へ注意を引いたりするために他人を利用するなどの傾向が見られます。
社交不安障害(社会不安障害)は、人前にさらされることに関する不安や恐怖が大きく、他人と話すことなどに強いストレスを感じる病気です。他人と関わることを避けるようになる場合があり、そのせいで思いやりがないと言われてしまう可能性があると考えられます。
これらの障害では、不安などの精神的な症状を薬で和らげて、カウンセリングを含む精神療法を併用することが多いです。
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では、思いやりがないと言われるのを直したい人はどうすればいいのでしょうか。
思いやりのある行動をするには、自分の立場ではなく相手の立場になって考えることが大切です。相手の立場になって考えるためには、相手とコミュニケーションを取り、環境や性格などをある程度知っておく必要があるでしょう。相手のことを多く知るほど、どのような助けを求めているのかを推測しやすくなります。
相手について多く情報を知っているだけでは、相手の立場になって考えることは難しいでしょう。それは価値観や考え方が、たとえ同じ性別や年齢、職業、家族構成であっても人それぞれだからです。では、どうすればいいかということですが、様々な可能性を考えて相手の望むものを不確定にしておくことが大切といえるでしょう。また、分からないことは相手に確認してみるのもいいでしょう。
自分に余裕がないと、相手のことを考えることが難しくなります。仕事や家事などで忙しいということだけでなく、自分自身の気持ちや内面的な特徴についてよく知らないことも、対人関係での余裕のなさにつながります。具体的には、自分が他人をどのような存在として捉えてきたかという特徴をつかむことが大切といわれています。
衝動性のある人や他人のことを自分の価値観で決めつけてしまう傾向がある人は、発言する前に内容について考え直す時間をつくるようにするといいかもしれません。例えば、会議では10秒ほど相手について考えをめぐらせた上で、自分の意見を伝えるようにしてみましょう。
ソーシャルスキルとは、人が社会の中で暮らしていくスキル(技術)のことをいいます。例えば、他人を傷つけないように何かを依頼したり断ったりするといったコミュニケーションや、自分の行動をコントロールすること、社会的なルールやマナーを理解することなどがソーシャルスキルとして挙げられます。ソーシャルスキル・トレーニングは主に病院や福祉施設、就労支援の場などで実施されており、発達障害を抱える方の困難を減らすことを目的としたり、精神疾患の治療に活用されたりしています。発達障害に該当しない人も受けることができるので、「ソーシャルスキルを身につけて、相手を思いやる行動ができるようになりたい」「他人とコミュニケーションを円滑に取れるようにしたい」という方におすすめです。
他人から「思いやりのない人だ」と言われると傷付いてしまいますよね。自分では思いやりを持って行動しているつもりであっても、もしかすると相手に伝わっていないのかもしれません。自分の価値観で決めつけてしまっていて、相手の望む行動ではないのかもしれません。
思いやりのある人になるには、他人とコミュニケーションを取って相手について知ることや、自分が他人に対してどのような考えを持っているのかを知ることが大切だと考えられます。カウンセリングでは、思いやりがないと言われる原因や解決策をカウンセラーと一緒に考えていくことができます。具体的には、カウンセラーとの対話の中で、自分の内面についての理解を深めたり、コミュニケーションの方法を少しずつ練習したりすることにより、思いやりがないと言われる問題の解決を目指す場合が多いでしょう。
<参考文献>
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発達障害|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html(2021-05-26 最終閲覧)
パーソナリティー障害|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省
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不安障害|こころの病気について知る|ストレスとこころ|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_02.html(2021-05-26 最終閲覧)