「ペットロス」という言葉を知っていますか?
動物と一緒に暮らしたことがある方は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ペットが亡くなって気持ちが落ち込んだり、いつかは訪れるペットとのお別れについて不安を感じたりすることもあるかと思います。大切なペットとのお別れによって陥ってしまうペットロスは、日常生活に支障をきたすほど深刻な状態になってしまうこともあります。
今回は、ペットロスの乗り越え方や対策についてご紹介しますので、ペットロスで悩んでいる方や不安を感じている方の参考になれば幸いです。
目次
- ペットロスとは
- グリーフケアとは
- おわりに
ペットロスとは、「ペットを亡くした」という飼い主の体験自体や、それによる悲しみのことをいいます。また、ペットとの別れや突然の死によって引き起こされる、精神的・身体的な不調を「ペットロス症候群」と呼ぶことがありますが、「ペットロス」と「ペットロス症候群」は同義語に近い形で認識されています。
昨今では、犬や猫だけでなく、さまざまな動物が家族の一員として迎えられています。これらのペットたちは、人の心の支えになってくれたり、癒しを与えてくれる存在として、時には家族以上の存在と感じることもあるでしょう。
そのような大切な存在であるペットを失うことによって計り知れないほどの喪失感や虚無感に襲われ、精神的にも身体的にもダメージを受け、ペットロスに陥ってしまう人は少なくありません。
具体的な心身の不調として、以下のような症状が現れることがあります。
・精神的な影響
1) 突然悲しくなり、涙が止まらなくなる
2) 無気力な状態が続く
3) 何事にも悲観的になる
4) 急にパニックや不安感に陥る
5) 強い孤独感を感じる
6) 物事に集中できない
7) ペットを失ったことへの罪悪感に苦しむ
8) 好きなことでもやる気がでない
・身体的な影響
1) 疲労感、倦怠感
2) 不眠
3) 摂食障害(食欲不振、過食)
4) 消火器系の不調(腹痛、吐き気、便秘、下痢など)
5) 肩こり
6) めまい
7) 手足のしびれ
8) じんましんなどの皮膚炎
これらの症状は一例であり、ペットロスによる影響は人によってさまざまです。
また、ペットを失ってすぐに上記のような反応が出る人もいれば、数年後など、反応が後からくる場合もあります。
日常生活に支障が出ていたり、症状が長く続いたりするときは、うつ病を発症している可能性も考えられますので、医療機関やカウンセリングで相談しましょう。
カウンセリングを通じて、ペットロスと向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの気持ちを臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
ペットロスは、誰でも陥ってしまう可能性がありますが、以下の特徴に当てはまる人はペットロスになりやすかったり、重症化しやすい傾向があります。
・真面目で責任感が強い
真面目で責任感が強く、普段から自分を責める傾向が強い人は、ペットの死の原因が他にあった場合も、「何か自分にできることがあったのではないか」「自分がもっと注意していれば」と自分を責め続け、苦しみから抜け出せなくなってしまうことがあります。
・ペットが唯一の家族だった人
一人暮らしなどで、ペットが唯一の家族だった場合、ペットロスになりやすい傾向があります。ペットのお世話をすることを生きがいにしていたり、ペット以外の話し相手が少ない場合、ペットを失ったときに、他に生きがいや楽しみの選択肢がなくなり、ペットロスが重症化してしまいます。
・突然ペットを失ってしまった人
前触れもなく心の準備ができていないまま、突然ペットを失ってしまった場合も、ペットロスになりやすいです。突然のペットの死に納得できず、目を背けたままにしてしまう人は、ペットロスが長期化してしまうこともあります。
また、長生きしたペットを亡くすと、一緒にいた時間も多いため、その反動は大きくなり、重症化してしまうことがあります。
・相談できる人がいない人
周囲にペットのことを話せる相手がいない人は、ストレスや不安をため込んでしまうため、ペットロスが重症化する一因となります。
また、ペットの話ができれば誰でもいいというわけでもありません。ペットに対する考え方や、悲しみの度合いの違いにより、話すことでかえってストレスをためてしまう可能性もあります。できるだけ同じ境遇を経験した人や、ペットに対する考え方が似ている人に話ができれば良いですが、そのような相手がいない場合、自分の中に抱え込むことで、ペットロスが悪化してしまうことがあります。
ペットロスを乗り越えるには、どのような方法があるのか、見ていきましょう。
・悲しみや辛い気持ちを我慢しない
元気なふりをしたり、無理をして別のことに取り組んだりする必要はありません。ペットが亡くなって悲しむことは、当然のことです。悲しい気持ちを押し込んだとしても、その感情は消えることなく、いつまでも悲しいままになってしまいます。涙が止まらないときは、気が済むまで泣いて、別れを惜しみ、悲しみを発散することが、ペットロスの克服につながります。
・思い出を振り返る
ペットとの思い出を振り返る時間も大切です。ペットがいない寂しさから、無理にペットのことを忘れようとすると、逆にペットロスが悪化してしまう可能性もあります。
また、ペットとの思い出の品は、気持ちが落ち着くまで手元に残しておき、気持ちが落ち着いたら、大切にしまっておきましょう。
ペットと過ごした時間を良い思い出として振り返ることで、気持ちの整理につながるかもしれません。
・お葬式を執り行う
人間の場合、お葬式を執り行うことで、遺された人たちが故人の死を受け入れ、故人との別れを実感し、気持ちを整理することができます。ペットも同様に、葬儀を執り行うことで、ペットとの思い出を振り返る時間を作ることができ、ペットの死を受け入れ、区切りをつけることができるかもしれません。
・相談や話ができる人を見つける
ペットに対する気持ちをよく理解してくれる人との会話は、ペットとの思い出を振り返ることにもなり、気持ちの整理にもなります。身近に話せる相手が見つからない場合は、SNSなどでの交流も選択肢のひとつです。「人に話す」という行為が苦痛や不安を和らげることにつながります。
・カウンセリングを受ける
ペットロスを克服するために、カウンセリングを受けることも良い方法です。
カウンセリングでは、大切な存在を失った人の心に寄り添い、別れの受容プロセスをお手伝いすることを「グリーフケア」と呼んでいます。ペットロスの場合も、グリーフケアが必要になることが少なくありません。
カウンセリングでは、カウンセラーとの対話を通して、相談者がペットとの別れを受け止め、前向きな気持ちになれるよう、サポートすることができます。
カウンセリングは、医療機関やカウンセリングルームのほか、オンラインのビデオ通話や電話、メールやSNS、チャットなどを使ったサービスもありますので、自分の状況や希望に合ったものを利用してみましょう。
グリーフケアとは、喪失(特に大切な存在との死別)の経験によって悲しみや苦痛、後悔、寂しさ、不安、怒りなどといった様々な感情(グリーフ)を抱える人に寄り添い、立ち直ることができるようにサポートすることをいいます。
アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー=ロスは、人は「否認→怒り→交渉→抑うつ→受容」の5段階のプロセスを通して、死を受け入れていくと提唱しました。この5段階のプロセスは、以下にご紹介するように、人がペットロスから立ち直るためのプロセスとしても考えられています。
1) 否認
最初に訪れるのは、ペットを失ったという現実を受け入れられず、まるでそれが事実ではないかのように感じる段階です。現実逃避をして、事実を否定している状態です。
2) 怒り
次に訪れるのは、後悔や自責の念が強まり、怒りへと変わる段階です。
「ペットが亡くなったのは自分のせいだ」「病気のせいだ」「獣医のせいだ」などと、受け入れ難い現実を何かのせいにし、自分や他人に対する怒りが生じます。
3) 交渉
「あの子を生き返らせてください」「自分が代わりに病気になっても良いから助けてほしい」といった神頼みのような気持ちが交渉の過程です。
4) 抑うつ
どんなに願ってもペットは戻ってこないことが分かり、深い悲しみや虚無感にとらわれたり、全てに対して無気力な状態になったりする段階です。この時期は特に苦しく、辛いもので、場合によってはうつ病の症状が現れることもあるため、注意が必要です。
5) 受容
最後に、これまでの段階を経て、少しずつペットとの別れを受け入れていく段階に入ります。悲しみが消えるわけではありませんが、それも含めてひとつの思い出として昇華され、日常生活に戻っていきます。
この5段階のプロセスは、すべての人がこのプロセスを通るというわけではなく、途中の段階から始まったり、順番が入れ替わったり、各段階を行ったり来たりすることもあります。
グリーフケアでは、この回復過程を一つの指針として、グリーフを抱える人の心理状態を客観的に捉え、立ち直ることができるよう、適切にサポートしていきます。
ペットロスにならないようにするために、今からできることをご紹介します。
・ペットとの時間を大切にして、思い出を作る
ペットロスは、ペットが亡くなった際に「もっと遊んであげればよかった」「もっとしっかりお世話していれば」といった後悔が原因となって悪化する場合があります。
後悔しないぐらい一緒に遊んだり、楽しい思い出を作ることで、後悔の念を抱きにくくなるかもしれません。
・ペットの死について、事前に心構えをする
ペットロスを防いだり、重症化しないようにするためには、事前の心構えが重要です。
ペットは人より寿命が短いため、多くの場合、ペットの最期を看取ることになります。そのことを理解した上でペットを迎え入れるとともに、最後に「亡くなってしまって悲しいけれど、出会えて本当に良かった」と思えるよう、一日一日を大切に過ごしてあげましょう。
また、家族がいる場合は、ペットの死や亡くなった際の対処について、事前に話し合っておくとよいでしょう。
いつかは必ず、大切なペットとのお別れが訪れます。大切なペットですから、亡くなってしまった際に気持ちが落ち込んでしまうのは自然なことです。
回復までに時間がかかってしまうこともあるかもしれませんが、無理をせず、自分の気持ちと向き合いながら、少しずつ立ち直っていくために、今回ご紹介したペットロスの乗り越え方などを参考にしていただければ幸いです。