「自分が本当にやりたいことは一体何なのか」「自分がどのように考えているのか」といったことが分からなくなるときはありませんか。このように、忙しくて心が疲れている人や複雑な気持ちを抱えている人、自分のことをもっと知りたい人におすすめするのが、ジャーナリングという習慣です。
目次
- まとめ
ジャーナリングとは、「書く瞑想」とも呼ばれ、頭に浮かんでいることを一定の時間内でただ紙に書いていくというものです。
もやもやと頭の中がすっきりしないときに、頭の中に浮かんでいる感情や経験などを文章にすることで、「自分が無意識的に感じていること」や「見過ごしていたけれど、実は悩んでいたこと」などが分かりやすくなり、自己理解を深めることができると考えられています。
紙に書くだけで心理的な効果を得られることを不思議に思う人もいるかもしれませんが、心理学者のロバート・A・エモンズはポジティブな感情や体験を書くことで幸福感や睡眠の向上、身体的な不調の低減に効果があることを、同じく心理学者のジェームズ・W・ペネベーカーはストレスや怒りなどのネガティブな内容を書くことでも医療機関への受診回数の低減に効果があることを明らかにしています。
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ジャーナリングを行うことの効果について、もう少し詳しく見ていきましょう。
私たちは意外と「自分が感じていること」を振り返らずに過ごしていますが、ジャーナリングを行うことで、「日頃から無意識的にどのようなことを感じているのか」を客観視することができます。紙に書かれた「自分の頭に浮かんだ感情や経験」を客観的に見ることができて、何度も繰り返していくうちに、例えば、「よくイライラという感情と合わせて書かれている経験」や「普段からよく使われている表現」などを把握しやすくなります。
自分の感情や経験を客観的に見ることによって、自分の思考パターンや思いがけない興味関心などに気づき、自己理解が深まりやすくなります。例えば、「イライラという感情と合わせて他人と話したことが書かれているから、対人にストレスを抱えやすいのかもしれない」「頻繁に『~すべき』という表現を使うので、自分は完璧主義的で妥協を許せないのかもしれない」といった見過ごされやすい自分自身への気づきを増やすことができます。ときにジャーナリングは「生きる上でのヒントを与える」と表現されたりすることがあり、自分の未来に影響を与えることにもつながると考えられています。
自分の思考パターンやネガティブな感情の原因に気づくことによって、ものごとに対してもっと異なった捉え方ができることや問題への対処法について考えやすくなり、不安やストレスを減らすことができるでしょう。
また、ジャーナリングは「書く瞑想」と言われるだけあって、余計な不安やストレスを増幅させないようにする「マインドフルネス」と共通するものがあります。過去や未来のことを考えすぎるために不安を抱えやすくなり、ネガティブな感情はさらなる不安を連鎖しやすいことから、マインドフルネスでは呼吸に意識を集中させる「マインドフルネス瞑想」という一種のトレーニングにより、過去や未来にとらわれない心の在り方を習得します。ジャーナリングでも「今この瞬間に自分が体感していること」に集中しやすくなるため、余計な不安やストレスを減らすことができると考えられます。
生きていく中で、抱えている問題を解決したくても気持ちの整理がつかず、何をすればよいか分からなくなるということがあると思います。ジャーナリングでは、複雑な気持ちをまず自分の中で明確にするのではなく、とにかく頭に浮かんでいるものを書くことで、自分の気持ちを一つずつ整理しやすくなります。
また、イライラしたり悲しいことがあったりしたときに誰かに話を聞いてもらうと、心が落ち着くことがあると思いますが、ジャーナリングにも似たような効果があると考えられています。自分の中にあるもやもやとした気持ちを紙に書く、つまり自分の外に向けて表現することで、気分がすっきりとしやすくなります。
ジャーナリングの多くは、頭に浮かんでいるものをノート1ページに、基本的には自由なやり方で書くというものですが、強いて言えば次のような方法で行うと、より効果的と考えられます。
ジャーナリングは思い立ったときにいつでも行うことができますが、繰り返していくことで効果が高まると考えられるので、特定の時間を使って習慣化するのがおすすめです。例えば、朝起きてご飯を食べたあと、仕事が終わってから家に着いたあと、といったように自分なりのタイミングを決めて行うことで、効果をより実感することができるでしょう。
しかし、「ジャーナリングをしなければいけない」と負担に感じる必要はありませんので、必ずしも決めたタイミングではなく、空き時間で手短に行なったり、忙しくて疲れているときは休んでみたり、あるいは自分の気持ちが複雑になっていると感じたときにだけ行なってみるというのも問題ないでしょう。
ジャーナリングを習慣化したい人は3分~15分程度で、一回当たりの負担を少なくすることで続けやすくなります。もちろん自分の気持ちを真剣に整理したいという人は、自分の集中できる場所で、さらに長い時間を使ってジャーナリングに取り組んでみるのもいいでしょう。
ジャーナリングでは、自分の頭に浮かんでいることを自由に書いていきますが、何を書いていいか分からない人は、テーマに沿って書いてみてもいいでしょう。例えば、仕事や恋愛、友達といった身近で自分の気持ちが反映されやすそうなテーマを選んでみるといいでしょう。不安を抱えやすい人は、過去のことをテーマにしないほうがいいかもしれません。
また、誰かに見せるわけではないので、丁寧に書く必要はありませんが、書いた内容を見て客観的な気づきを得たい人は自分で読める程度の書き方であるといいでしょう。
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ジャーナリングと日記は似ていますが、次のような違いがあるといえます。
日記
ジャーナリング
過去にトラウマを抱えている人、不安障害やうつ病の診断を受けている人は、ジャーナリングによって不安な感情が起こりやすくなったり、ネガティブな考え方を増幅させてしまったりすることがあるため、状況によっては不向きであると考えられます。不安や気分の落ち込みが大きいときには、まずは心や体を休めることを大切にして、冷静な思考を取り戻してから自分の心の在り方を見直すために、ジャーナリングに取り組んでみるとよいでしょう。
ジャーナリングとは、頭に浮かんでいるものをそのまま紙に書き出すことで自己理解を深めるという方法です。自分の気持ちが整理され、不安やストレスの原因や自分の予想を超えた興味関心の対象に気づきやすくなると考えられます。頭の中がもやもやする、自分のやりたいことが分からないという人は、気軽にジャーナリングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
中島妃佳里(2013)ジャーナリングの意義とその方法, 関西大学臨床心理専門職大学院紀要, No.3, pp.21-30
宮本一平(2014)Journalingと Interpersonal Process Recallを応用して自らを振り返り理解を深める試み, No.4, pp.63-70
紀日奈子 久保田進也 三國牧子(2014)自発的な筆記行動と心身の健康との関係性, 九州産業大学国際文化学会, No.57, pp.103-126