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  1. 従業員が自殺(自死)した場合の職場の対応とポストベンションの重要性

従業員が自殺(自死)した場合の職場の対応とポストベンションの重要性

更新日 2024.10.03
職場・仕事
うららか相談室

ポストベンションとは、自殺が起こってしまった場合の、遺された人への心のケアを意味します。職場で自殺が起こってしまった場合、従業員の心のケアを行うことは、企業の責任であると考えられています。本記事では、職場で自殺が起こってしまった場合の影響や対応方法、ポストベンション、自殺対策について説明します。職場での自殺予防・対策や、従業員への心のケアを検討されている人事ご担当者様や産業保健スタッフの方々はぜひご一読ください。

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目次

- 従業員の自殺が与える職場への影響

- 遺された従業員への事後対応

- 職場の自殺予防・危機介入について

- ポストベンション・カウンセリング導入方法

- おわりに

従業員の自殺が与える職場への影響


これまで一緒に働いてきた職場の従業員が自殺してしまうということは非常に大きな出来事であり、その従業員に関わっていた全ての人がショックを受けることになります。遺された人々の心の中には「死んでしまったなんて信じられない」「どうして防ぐことができなかったのだろう」等、様々な感情が浮かんできます。場合によっては、遺された人がうつ病や不安障害等といった精神疾患になってしまい、専門的な治療が必要になる場合もあります。そのため、昨今では職場の自殺が起こってしまった場合の心のケアを行うことや、自殺の対策を行うことが、企業や組織において重要な課題となってきています。

遺された従業員への事後対応

万が一、職場で自殺が起こってしまった場合、職場の人々は大きなショックを受けることになります。遺された従業員のメンタル不調を防ぐために、速やかな対処が求められます。職場の状況や環境によって必要な方法は異なりますが、基本的な内容を下記に挙げました。


1.心のケアに対応するメンバーを明らかにしておく

職場での対応のためには、関係者同士での情報共有が必要です。社内の状況を踏まえて専門家と連携しながら対応しましょう。

従業員の心のケアに対応するメンバーとしては、下記が挙げられます。

(心のケアに対応するメンバーの例)

  • 人事労務担当者:社員のケアの中心となる
  • 産業医:症状が出ている社員の就業判断を行う
  • 臨床心理士、公認心理師:カウンセリング等、心のケアを行う

対応メンバーとしては、人事労務担当者等が中心となり、産業医や医療保健スタッフ、臨床心理士や公認心理師等の専門家を活用しましょう。


2.自殺についての事実を中立的な立場で伝える

自殺が起こってしまったという事実は衝撃的ではありますが、噂や憶測による社内の混乱や不安を防ぐためにも適切な情報共有を行うことが必要です。事実を淡々と伝え、動揺している社員には個別・具体的に働きかけていくことが大切です。

例えば下記のような情報を公開することが望ましいです。

(共有する情報の例)

  • 亡くなった従業員の氏名
  • 永眠された日時
  • 葬儀の情報

葬儀は、遺された従業員が亡くなった方に別れを告げる大切な機会です。遺族の方の同意が得られる場合は、社内の希望者が参加できるような機会を作りましょう。


3.率直な感情を表現する機会を与える

遺された人は訃報に衝撃を受けて、様々な感情や思いを抱えることになります。亡くなった従業員とつながりがあった人々が集まって、お互いの率直な気持ちを語り合い、分かち合う機会を作ることが大切です。複雑な感情を抱いているのが自分だけではないと知るだけでも、負担が軽くなることがあります。

ただし、自分の感情を表に出すことが出来ない人もいるので、強制的な雰囲気にならないよう気を付けましょう。率直な気持ちを話すことも自由であり、他の人々の話を黙って聞いている自由もあることを保証しておきます。


4.自殺を経験した時に起こる反応や症状を説明する

遺された人に起こる心身の反応の多くは、誰にでも起こる一時的なものであり、悩んでいる気持ちを専門家に相談することが効果的です。亡くなった従業員の情報共有と同時に、一般的な症状や相談先について共有しましょう。


(一般的な症状の例)

  • 眠れない
  • いったん寝ついても、すぐに目が覚める
  • 恐ろしい夢を見る
  • 自殺した人のことをしばしば思い出す
  • 知人の自殺の場面が目の前に現れる気がする
  • 自殺が起きたことに対して自分を責める
  • 死にとらわれる
  • 自分も自殺するのではないかと不安でたまらない
  • ひどくビクビクする
  • 周囲にベールがかかったように感じる
  • やる気がおきない
  • 仕事に身が入らない
  • 注意が集中できない
  • 些細なことが気になる
  • わずかなことも決められない
  • 誰にも会いたくない
  • 興味がわかない
  • 不安でたまらない
  • ひとりでいるのが怖い
  • 心臓がドキドキする
  • 息苦しい
  • 漠然とした身体の不調が続く
  • 落ちつきがない
  • 悲しくてたまらない
  • 涙があふれる
  • 感情が不安定になる
  • 激しい怒りにかられる

症状は時間とともに徐々に和らいでいくものから、長年に渡って心の傷になってしまうものまで様々です。時には、うつ病・不安障害・ASD(急性ストレス障害)・PTSD(外傷後ストレス障害)を発病して治療が必要になることもあります。従業員に上記のような症状が見られたら、一人で悩まずに相談するよう働きかけます。


5.希望する人や特に影響を受ける可能性がある人に積極的に働きかける

自覚的な不安がある方や、個別に話を聞いてほしいと思っている方、特に深刻な影響が出る可能性がある人に対しては、積極的な働きかけが必要です。産業医面談やカウンセリング等、できるだけ早い段階で専門家に話をする機会を設けます。下記のような人は、自殺に特に強い影響を受ける可能性があります。

(自殺に特に強い影響を受ける可能性がある人)

  • 亡くなった方と繋がりがあった人(上司、部下、同僚 等)
  • 第一発見者、搬送者
  • 自殺が起きたことに責任を感じている人
  • 葬儀で特に打ちひしがれていた人
  • サポートが十分に得られない人
  • 亡くなった方と境遇が似ている人
  • 精神疾患にかかっている人
  • これまでに自殺を図ったことがある人
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職場の自殺予防・危機介入について


自殺予防は下記の3段階で分類されています。


1.プリベンション(事前対応)

自殺の予防。原因を取り除く、自殺予防教育

2.インターベンション(危機介入)

今まさに起きつつある自殺の危機に介入し、自殺を防ぐ。

3.ポストベンション(事後対応)

自殺が生じてしまった場合に、遺された方へ心のケア


自殺予防のプリベンションと、危機介入のインターベンションについて詳しく説明します。


・プリベンション:日常における自殺対策への配慮

みなさんの中には、日頃から自殺について話題にすることに抵抗を感じる人や、「自殺について話をすると、かえって自殺の可能性を高めてしまうのではないか」と不安に思う方もいるかもしれません。確かに自殺という話題は繊細な内容で、話しづらいものではありますが、誰にとっても関わる可能性のある大切な話でもあります。日頃から、誰かに相談することを習慣づけたり、いつでも相談できるメンタルヘルスの相談窓口を設けておくことが大切です。

また、個別の配慮として、残業時間が多い人や、職場や家庭で課題を抱えている人、うつ病等の精神疾患を抱えている人には、上司からの日頃の声かけをこまめに行い、体調を確認することが大切です。


(効果的なプリベンションの例)

  • セルフケア研修:メンタルヘルスの重要性、ストレス対策の教育
  • 相談窓口の設置:産業医や保健師、看護師、カウンセラーによる常設窓口
  • ラインケア研修:部下のメンタル不調対策、日頃の声かけの教育

セルフケア研修では、社員全体のメンタルヘルス教育を行うことができます。悩みを抱えたら誰かに相談するよう教育することで、相談しやすい環境を作ることも大切です。

従業員がいつでも相談できる常設の相談窓口の設置も効果的です。社内での窓口が難しい場合は、カウンセリングサービスを行っている専門の企業に委託するのも良いでしょう。

ラインケア研修では、部下のメンタル不調を防ぐための上司の声かけの仕方や、メンタルヘルスに関する知識について教育することができます。社員それぞれが知識をつけて職場全体でメンタルヘルス対策を行うことが大切です。


・インターベンション:自殺の予兆が見られる人への対応

自殺の予兆として「死にたい」、「自殺したい」、「生きていくのが嫌になった」、「来年はもうここには居ないだろう」等の直接的な表現をする場合が挙げられます。また、自殺に関する文章や絵を描いたり、手首を切る等の自傷行為、「楽になりたい」、「遠くに行きたい」、「消えたい」、「ここに来るのもこれが最後だろう」、「これ以上耐えられない」等の間接的な表現をする場合もあります。

自殺の予兆が少しでもある場合は、下記のような対策が望ましいです。


1.真剣に話を聞く

自殺について特定の相手に打ち明けたのは、必ず意味があるはずです。きちんと相手に向き合って話を聴くことが大切です。相手がきちんと話を聞いてくれることで、本人に安心感を与えることができます。


2.言葉の真意を聴く

自殺をほのめかすような表現の中には、その背後に異なる意味があることがあります。例えば「消えてしまいたい」という言葉の背後には、「現在の苦境から逃れて楽になりたい」という気持ちがあるのかもしれません。「死にたい」気持ちと「もっと生きたい」気持ちの間で揺れ動いている可能性もあります。相手の真意を理解しようと耳を傾けてみてください。


3.できる限りの傾聴をする

自殺を打ち明けられた場合、できる限り時間をかけて傾聴することが必要です。そして徹底して聞き役に努めることが大切です。気の利いた助言をすることよりも、時間をかけて話を聴くことで、本人の自殺に対する衝動が和らぐことも少なくありません。

どうしてもその場で時間が取れない時は、本人に事情を話し、なるべく近い時間で話を聴く約束をしましょう。


4.話題をそらさない

自殺について打ち明けるまでに、本人は大きな決心をしたはずです。すぐに自殺以外の事柄に話題をそらすことは避けましょう。また、「死ぬなんて言ってはいけない」「そんなことを考えるのはおかしい」等、訴えや気持ちを否定することは適切ではありません。「もっと頑張れ」という表面的な励ましや、「育ててくれた親に申し訳ないだろう」等、社会的な価値観・倫理観を押し付けることも控えるべきです。本人は何か事情があって”死にたいほど辛い”のですから、本人の立場に立ってまずは気持ちを傾聴しましょう。


5.キーパーソンとの連携

家族や友人、上司等、日頃から本人との付き合いが深く、本人の状況や気持ちを理解している人、本人が信頼している人を「キーパーソン」と言います。キーパーソンにも事情を共有し、生活の中で見守ってもらうなど、サポートを得ることも自殺を防ぐために効果的です。


6.産業保健スタッフ等専門家への相談を促す

うつ病等の精神疾患の存在が疑われたり、自殺の危険性が迫っていると考えられたりする例では、産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師、カウンセラー)等や専門医による診断・治療が欠かせません。社内に産業保健スタッフが居ない場合には、外部のメンタルヘルスサービスや、医療機関の受診を促しましょう。この場合にも、十分な傾聴で本人の状況を理解し、専門家への相談を繰り返し勧めます。職場では、いざというときの労働者の心の健康問題に関する相談先を確保しておくことも大切です。


7.「自殺しない」約束をする

本人と「自殺しない」約束をすることも自殺防止に有効であることが多いです。「あなたが辛くなったら必ず話を聞くから、自殺はしないと約束してほしい」と言葉にすることが大切です。ただし、本人が自分自身の行動をコントロールすることが困難な場合には、効果があまりないこともあります。

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ポストベンション・カウンセリング導入方法

万が一職場で自殺した人が出た場合、従業員への早急なケアが必要です。

まずは社内で、従業員の心のケアに対応するスタッフや対応方法を検討しましょう。産業医や保健師、カウンセラー等の社内の健康管理スタッフのサポートを得ることも大切です。社内に健康管理スタッフがいない場合は、カウンセリングサービスを行っている専門の企業に相談することも1つの方法です。

亡くなった方に関わりがある方やショックの大きい方を中心にカウンセリング対象者を選び、対象者全員にカウンセリングを行うといった方法もあります。職場の状況によって適切なポストベンションの方法は異なりますので、まずは一度ポストベンションのノウハウがある専門家に相談することが望ましいでしょう。


うららか相談室では、自殺予防にも効果的なセルフケア研修・ラインケア研修や、カウンセリングの中でのスクリーニングや継続カウンセリング等、企業の状況に合わせた心のケアを提案することが可能です。

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おわりに

職場で自殺が起こってしまった場合の職場での対応やポストベンション、自殺対策方法について紹介しました。大切な社員の命を守るために、この機会に職場の自殺予防対策やポストベンションについて検討してみてはいかがでしょうか。


参考:厚生労働省「職場における自殺の予防と対応」

https://kokoro.mhlw.go.jp/brochure/supporter/files/H22_jisatsu_yobou_taiou.pdf

このコラムを書いた人
オンラインカウンセリングうららか相談室運営スタッフ
うららか相談室スタッフ
うららか相談室の運営担当です。カウンセリングに関する疑問・知識や活用方法について、初めての方にもわかりやすくご案内します。
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