自分自身を客観的に認知することを「メタ認知」といいます。
メタ認知は、元々は心理学の専門用語として使われていましたが、近年、ビジネス・学校教育・人材育成などの業界で、重要な能力の一つとして注目されています。
今回は、メタ認知の具体例やメタ認知能力が高い人の特徴、メタ認知能力を高めるトレーニング方法などについてご紹介します。
目次
- メタ認知とは
- メタ認知の具体例
- おわりに
メタ認知とは、「自分が認知していることを客観的に把握すること」です。
メタ認知の「メタ」には、「高次の」という意味があり、「認知」には「知る・覚える・考える・感じる」などの意味があります。つまり、わかりやすく言い換えると、自分が知り・覚え・考え・感じている状態やその過程について、一つ上の視点からとらえ直すことが「メタ認知」といえます。
また、メタ認知には「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」という2つの要素があります。この2つの要素について解説します。
・メタ認知的知識
メタ認知的知識とは、人間の認知の特性・課題・解決に関する知識のことです。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1) 人間の認知特性についての知識
自分や他人の長所・短所など、人間の知覚や思考の特性に関する知識で、たとえば「記憶には間違いが生じることがある」「自分は集中力があるが、没頭しすぎて周りが見えなくなることがある」といった知識を指します。
2) 課題についての知識
「抽象的な説明は記憶に残りにくい」「長時間にわたる単純作業では、ミスが出やすい」など、課題そのものが抱えている特性のことです。
3) 課題解決の方略についての知識
「端的に繰り返し説明すれば記憶に残りやすい」「長時間にわたる単純作業では、休憩を挟んだほうが業務効率が良くなる」など、課題をよりよく遂行するための戦略や方略に関する知識のことです。
これらのメタ認知的知識を豊富に持っているほど、以下に説明するメタ認知的活動を上手く行うことができるようになります。
・メタ認知的活動
メタ認知的活動とは、メタ認知を働かせることです。メタ認知的知識をもとに、認知の誤りを改善していく過程を指します。
メタ認知的活動は、以下のメタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールが循環的に働いているといいます。
1) メタ認知的モニタリング
メタ認知的モニタリングは、自分の認知や行動を観察することです。自分の状態を客観的に見て、気づきを得ることや、間違いがないか検討することなどを指します。
2) メタ認知的コントロール
メタ認知的コントロールは、モニタリングで得た情報をもとに目標や計画を立てたり、行動を修正したりすることです。
知識として知っているだけでは状況は改善されませんし、メタ認知を働かせるためには、前提として知識が必要です。知識と活動を連動させることが大切であり、メタ認知的知識をしっかり得ることで、メタ認知的活動に活かすことができます。
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メタ認知は、日常の様々な場面で見られます。いくつか例を見ていきましょう。
・一度話を聞いただけでは忘れてしまうので、メモを取るようにしている
「一度話を聞いただけでは忘れてしまう」というメタ認知的知識をもとに、「メモを取るようする」という対処法を実践し、状況を改善しようとすることは、メタ認知的活動といえます。メタ認知能力があれば、自分の短所に対し、どのような対処法があるのかを主体的に考え、工夫することができます。
・知人に挨拶をしたのに返答が無かった
挨拶をしたのに返答が無かったとき、「自分は嫌われているのかもしれない」「あの人はなんて性格が悪いんだ」などとネガティブな気持ちになってしまう人もいるかもしれません。一方、「単に気がつかなかっただけかもしれない」「事情があって急いでいたのかもしれない」など、別の解釈をすることもできます。
このように俯瞰して見ることで、ある出来事によって必要以上に落ち込んだり、ストレスを抱える機会を減らすことができます。自分にストレスを与えるのは、出来事そのものではなく、その出来事をネガティブに捉える自分の思考だというわけです。メタ認知能力が高ければ、1つの出来事を多角的な視点で見ることができ、上手く感情をマネジメントすることができます。
・仕事でミスを回避するために、普段よりチェックを慎重に行った
メタ認知能力が高い人は、「今日は少し体調が悪い」「集中力が散漫している」といった自分の状態を把握することができます。そのため、普段と同じ作業でも、チェックを慎重に行ったり、周囲の人に確認を依頼することなどにより、ミスを防止することができます。
一方、自分の状態を正しく認識することができないと、「確認した」という思い込みや、「いつもできているから大丈夫」といった油断から、ミスを起こしてしまう可能性が高くなります。
では、メタ認知能力が高い人には、どのような特徴があるのでしょうか。
・自分の能力を理解し、適切な目標を立てられる
メタ認知能力が高い人は、自分の強み・弱みをよく理解しています。そのため、得意な分野では積極的に行動することができ、苦手な分野ではどのように工夫できるかを考えることができます。そして、自分の行動を振り返り、強みを強化するための目標や、弱みを改善する方法を考えながら、自己を成長させていきます。
・感情のコントロールが上手く、冷静な判断ができる
メタ認知能力が高い人は、怒りなどの感情が湧いても、その状態を自覚し、「今、私は怒っている」と気づくことができます。さらに、「なぜ自分は怒っているのか?」「イライラの原因は何か?」と客観的に考えることができ、感情に振り回されず、冷静に判断することができます。
・柔軟に対応できる
メタ認知能力が高い人は、自分に必要なものを把握することが得意です。たとえば、計画通りに物事が進まないとき、新しい環境に変わったとき、これまでと違ったやり方に適応しなければならないときなど、自分にできる行動は何かを考えて動くことができ、様々な状況の変化にも柔軟に対応することができます。
・協調性が高く、円滑な人間関係を築ける
メタ認知能力が高いと、自分自身だけでなく、相手の行動・言動についても考えることができます。相手の感情や、どのような意図があるのかを予想して、互いにとって最適な言葉や対応を選ぶことができます。適切な配慮をしながらコミュニケーションをとることができるため、周囲の人と円滑な人間関係を築くことができます。
メタ認知能力は、トレーニングによって高めることができます。ここでは、トレーニング方法を4つご紹介します。
・セルフモニタリングとコントロール
メタ認知的活動の解説でご紹介したモニタリングとコントロールを繰り返し行うことで、メタ認知能力を鍛えることができます。
セルフモニタリングとは、自分自身を観察することで、自分の強みや弱みを分析したり、課題や欠点を見つけ出す手法です。ノートやメモ帳、PCやスマートフォンのメモ機能などを活用して、日常生活での出来事や思考、感情、体の反応、行動などを書き出してみましょう。視覚化されることで客観的に振り返ることができます。
また、モニタリングの結果をもとに、目標を立てたり、行動改善について考えてみましょう。
モニタリングとコントロールを繰り返すことを習慣づけることで、メタ認知能力を鍛えることができます。
・ジャーナリング
ジャーナリングとは、10分程度の決められた時間の中で、自分の頭に浮かんだことを書き出すことを指します。直感的に思いつく内容を書き連ねることで、自分の潜在的な意識が可視化される効果があります。
考えや思考を文章で可視化すると、これまでストレスに感じていた物事が「大した問題ではない」と思えるようになることがあり、なぜ自分がストレスを感じていたのかが分かるようになります。客観的に自分を見つめ直すことができ、ストレスと向き合いやすくなる点で、メタ認知能力を高めるトレーニングになります。
・マインドフルネス
メタ認知能力の向上には、マインドフルネス瞑想も有効です。
マインドフルネスとは、過去・未来や余計な思考にとらわれず、今この瞬間に意識を向ける心の在り方です。つい頭に浮かんでしまう思考や感情を鎮め、「今」だけに集中している状態を意識的につくっていくのがマインドフルネスであり、その手法として「瞑想」が用いられています。
マインドフルネス瞑想を行うことにより、自分の心の動きを理解することができ、メタ認知能力の向上に必要な「モニタリング」のスキルを高めることにつながります。
・カウンセリング
カウンセリングを受けてみるのも、メタ認知能力を高めるのに効果的です。
カウンセリングでは、相談者が自分の状況を冷静に、客観的に理解できていないときも、心理の専門家であるカウンセラーが対話によって状況や頭の中を整理することで、相談者が自分自身でそのことに気づくことができるよう、サポートを行います。
さらに、その気づきからどんな行動をとっていくと良いのかについてカウンセラーと話すことで、気づきで終わらせず、次の一歩へとつないでいくことができるのです。
また、先述したマインドフルネスをしっかり身につけたい場合、カウンセラーに相談しながら習得していくのも効果的です。
カウンセリングは、カウンセリングルームなどで受けることができるほか、オンラインのビデオ通話や電話、メールやチャットなどを使ったものもありますので、自分の希望や状況に合ったものを利用してみましょう。
メタ認知には、自分自身を客観視することで、多面的な考え方や円滑なコミュニケーションを実現できるというメリットがあり、メタ認知能力の高さは、仕事や学校だけでなく、普段の生活にも良い影響を与えます。
メタ認知能力はトレーニングによって高めることができますので、今回ご紹介した方法を実践して、メタ認知能力を鍛えてみてはいかがでしょうか。
<参考文献> 三宮 真智子.メタ認知の心理学.心理学ワールド,2023年1月15日,100号,p.42-43.