「人間は感情の生き物」と言われますが、感情に左右されたり、うまく感情がコントロールできなかったりすることが時としてあるのは、人として自然なことと思います。しかし、感情に振り回されると自分も周囲もしんどくさせてしまいますから、コントロールできたらそれに越したことはないですよね。
そのためには感情がコントロールできない原因や対処法について、知識を持っておくことが大切です。
目次
- おわりに
普段は問題ないのに時々感情がコントロールできなくなってしまう人もいれば、いつも感情に振り回されがちな人もいることと思います。感情がコントロールできない理由は人や状況によって異なりますが、よく見られる原因を挙げていきます。
・ストレスや疲れ
よくあるのは、ストレスが重なっているときや疲れがたまっているときです。
ストレスや疲弊によってコントロールが弱まっていたり、我慢する気力もなくなりつつあったりすると、普段はスルーできるようなことでも怒りや悲しみで溢れてしまうことがあります。
・睡眠不足
睡眠不足も感情コントロールの大敵です。睡眠には疲労の回復、身体機能の修復、ホルモン分泌など心身の健康に欠かせない様々な機能があります。
睡眠中はノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返されますが、レム睡眠中に怒りや悲しみの鎮静化など、情緒面での整理も行われます。睡眠不足だとレム睡眠が少なくなり、情緒の安定化が不十分なまま日中を過ごすことになってしまいます。
・ホルモンバランスなど身体的影響や病気
風邪や頭痛腹痛などの体調不良や身体的疾患、女性の場合は生理周期や更年期などに連動するホルモンバランスの影響など、体調によって感情のコントロールが難しくなることもあります。
また、抑うつ状態やうつ病、統合失調症、不安性障害など、精神的な病気では症状として感情の統制が取りづらくなることもよくあります。
・否定的な受け止め方をする思考の癖
日頃から感情のコントロールが苦手という方は、物事や人の言動を自分にとって辛く感じられるような受け止め方をしてしまう習慣が、その原因になっているかもしれません。
体感される感情が強ければ強いほどコントロールは難しくなるため、現実相応以上に悲しみや怒り、焦りなどを生じさせるような認知をする人は、周囲と比べて感情コントロールができない場面は増えるでしょう。
感情のコントロールができない要因に発達障害が関連するのではないか、自分でも「大人の発達障害なのではないか」と不安に思うこともあるかもしれません。この辺りについても見てみましょう。
・大人の発達障害とは
発達障害は生まれつきの脳機能の障害を主な要因とする障害で、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などに分類されます。症状の種類や出方にかなり左右されますが、幼児期や学童期に診断がつくことも珍しくありません。診断を受けた方が成長して大人になった状態を、大人の発達障害と呼ぶこともあります。
ただ、近年では早期の診断や療育に繋がることも増えていますが、今大人と言われる年代の方々が子どもだった頃は、発達障害という概念自体が知られておらず、症状が出ていたとしても「変わった子」「問題児」としか捉えられず、生きづらさの原因が分からないまま大人になる人もいたことでしょう。そのような方々が大人になってから受診して発達障害だと分かった場合についても、大人の発達障害と言われます。
・発達障害の特性によって感情統制が難しい場合も
発達障害の特性には下記のようなものがあります。
☑ あいまいな指示や表現が理解しづらい
☑ 急な予定変更や臨機応変な対応が苦手
☑ 思いついたらすぐ動いたり口に出したりする
☑ 感覚が敏感で疲れやすい
☑ 文章の読み書きや計算がとても苦手で苦痛
こういった発達障害の特性によって、生きづらさや疲れを体感する頻度が増えかねず、その場合は疲れやストレスによって感情のコントロールが難しくなることも考えられます。
・二次障害による症状
上記のような発達障害の特性を周囲に理解されず、叱責や否定などに晒されることで自己否定感やストレスが重なると、自信を失ってしまったり抑うつ症状が出たりと、二次障害と呼ばれる状態になることがあります。その影響で、感情のコントロールがさらに難しくなることもあります。
・診断は医師にしかできない
今、自分の気持ちをコントロールできなくて困っている方の中には、ご自身の発達障害を疑っている人がいるかもしれません。先述の通り、未診断のまま大人になり、大人になって発達障害があったことが分かる人もいますので、そのような疑問を持たれるのも不思議ではないと思います。
発達障害か否かの診断は医師のみができることなので、ご自分や周囲が決めつけることはしない方がよいです。感情のコントロールやそれ以外の点でも、学校や職場、家庭内など普段過ごしている場所でお困りになることがあって、ご自分の発達障害の有無を知りたいならば、受診をする必要があります。
感情のコントロールが苦手な自覚がある方や、実際に気持ちを抑えられず困ったご経験のある方は、あらかじめいくつかの対処法を頭に入れておくと良いです。その場ですぐできそうなごく簡単な対処法をいくつかご紹介します。
・その場から離れる
状況が許せば、その場から離れて別の部屋やトイレに行くなどして一人になり、感情を乱す刺激から物理的に距離を取るのがもっとも簡単な対処法です。安心できる場所で少し時間をおくことで、自然に気持ちが落ち着いてくることもあります。
・深呼吸やストレッチでリラックスを図る
その場にとどまらなければならない状況でも、呼吸法や筋肉の緊張を緩める方法ならすぐ実践可能です。
☑ 心の中で数を数えながらゆっくり息を吐いて吸うことを5~10分続ける
☑ 手や肩にギュッと力を入れて抜くことを繰り返す
怒りや悲しみ、恐怖などに襲われているときは、心だけでなく身体にも緊張が見られますが、このような対処をするだけでも、身体の緊張をほぐして自律神経のバランスを整え、強い感情を軽減することができます。
・目の前にあるものをひとつずつ心の中で挙げていく
辛い感情だけで心の中がいっぱいになってしまうとコントロールが難しくなるので、心の中に別のものを入れていき、感情に支配されている容積を減らすイメージを持ってみると、コントロールしやすくなります。
そのための方法として、「机、照明、お茶、窓…」というように、目の前にあるものの名前をひとつずつ心の中で挙げていくのも有効です。
・紙などに書き出す
感情的になってしまった出来事や、その時の気持ちなどを書いていくのもひとつの手です。
気持ちを書いていくのも発散という意味では効果的ですが、それだとうまく感情のコントロールに繋がらない場合は、客観的な出来事だけを書いていく方が効果が高いこともあります。自分で書きだした客観的事実を改めて見てみると、そんなに感情を乱すようなことではなかったと思えて落ち着けることもあります。
・信頼できる人に話す
上記のような対策をしてみても辛い感情が残って、そのことばかり考えてしまったりするようなときは、信頼できる人に話すのも大切なことです。誰かに聞いてもらうだけでも気持ちが落ち着いたという経験がある方も多いのではないでしょうか。
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感情的になっているときではなく、普段から対策することで感情のコントロールを今よりも容易にしていくことも可能です。そのための方法をいくつか見てみましょう。
・感情を調整するためのグッズなどを用意しておく
お気に入りの絵や写真、アロマ、スクイーズなど、気持ちがふっと緩むようなグッズを持ち歩いたり、目に入りやすいところに置いておいたりして、感情に支配されそうになったらそれを見たり使ったりするのも、良いコントロール法のひとつです。
・思考の癖を見出し自覚する
不当に扱われた時や大切なものや人を失ったときなど、怒ったり悲しんだり感情的になったりしても、それは人間として自然なことと言える状況もあります。しかし、そうではないときに、状況に適わないほど強い感情が出てきてコントロールできない場合は、思考の癖が影響している可能性があります。
感情的になってしまうのはどんな状況が多いのか、その時心に湧いてくるのはどんな考えや感情なのかを改めて振り返ってみると、自分の物事の受け止め方の癖のようなものが見えてきます。現実を実際以上に否定的に捉える癖がある場合、それに伴って感情が乱れる機会も増えることになってしまうので、まずはその捉え方の癖に気づき、自覚をすることが大切です。
感情的になったとき、「思考の癖でこんな感情になっているだけで、実際はそれほどでもない出来事なのかもしれない」と捉え直してみると、自分の癖を修正していくことに繋がります。
・相談先を確保しておく
とはいえ、自分の癖が分からない、分かったところで自分では修正できない、ということもあろうかと思います。そんなときは自分をよく知る人やカウンセラーなど、第三者に相談して、一緒に取り組んでいくと良いでしょう。
一人でどうにかしなくてはと思うと、余計に気持ちをコントロールしづらくなってしまいます。強い感情に振り回されてどうしようもなく困った時も、一人で乗り切らなくてもいいんだと思えるだけで少し楽になりますので、相談先を確保しておくのも大切な対処法になり得ます。
近年、アンガーマネジメントやアンガーコントロールという用語をよく見聞きするようになりましたが、人間にはいろんな感情が湧いて当然ですので、「コントロールしなくては」「コントロールできない自分はダメだ」と思いすぎる必要のない状況もあります。
ただ、状況にそぐわない感情で自分や周囲が困ったり、状況にかかわらず自分自身が辛いと感じるような強い感情は、ちょうどいいところまでコントロールできるようになるべく、取り組みやすそうな対策からお試しいただけたらと思います。